ムシパンで、喜びを
−喜びを売ることができる私の仕事−


渡 辺 祐 介

蒸しパン屋さん

まぁ、当たり前のことかもしれませんが、人に心から喜んでもらえたら
自分も素直に嬉しいんですよね(笑い)



1.はじめに
2.ムシパン
3.ムッシュ
4.終わりに



1.はじめに

職人レポート第4回目は、ムシパン職人のムッシュこと渡辺祐介さんです。

阿倍野区王子商店街の顔とも言えるムッシュをご存知でしょうか?
お店の前を通れば、もくもくと立ち昇る湯気に、ほんのりと明るい店内、いいにおい。
誰もがこのお店のことが気になり、ふと立ち寄るでしょう。

今回は、そんな気になるお店、
“ムッシュムシパン”
店主ムッシュの、蒸しパンにかける情熱、生き方をレポートしてきました。




2.ムシパン



「ムシパンを通じてひとりでも多くの方に喜んでもらう」ということをモットーに、
ムッシュは数多くのことにチャレンジしています。

次々に新しいムシパンを発表することをはじめ、
蒸しパン新聞の発行(週刊)、充実したブログ、ムシパン教室の開催、出張ムシパンなど多岐にわたっています。

ムシパン新聞
多くの愛読者を抱えている蒸しパン新聞は、
毎週木曜日に店頭で配布しているムッシュ自作の新聞です。
その中では、自分を客観的に「渡辺氏」としてインタビューし、みんなを楽しませています。
今話題のセルフプロデュースのカリスマという声もちらほら聞かれます。
ムシパン教室
先日開催されたムシパン教室では、親子連れの方などを中心に多くの人が参加されました。
そこでは、参加者の思っている“蒸しパン”ではなく、
自由にイメージし、食材を組み合わせた“ムシパン”をつくってもらうこと、
参加者同士がムシパンを通じて仲良くなってもらうことをねらいとして、大成功を収めました。

ムシパン教室での様子
ムッシュムシパン
お店の接客空間にも大変なこだわりがあります。

------  ムッシュムシパンには看板がありませんが?
ムッシュ  看板があったら、その看板のイメージがすごく強くなってしまうんです。
なので、もっと歯がゆい思いをさせるというか、
前をすっと通った人に「何の店かな?」っていうふうに感じてほしいんですよ。
ただ単にそういうふうにからかって遊ぶとかいうのじゃなくて、
わかったときに、「そうか蒸しパン屋さんなんだ」とわかったらちょっとうれしいと思うんです。


------  入り口付近が薄暗くないですか?
ムッシュ  入り口が暗いほうがお客さんが来られた時に、
見られていないという気分になるんですよね。
この手前の電気が点いていたら、ごっついみられているという気分になると思うんです。
それに、湯気がすごく綺麗ですよね。

看板のない店構え
------  この入り口においてあるムシパンリストはどうしてつくろうと思ったのですか?
ムッシュ  自転車でお子さんを連れてこられる方がすごく多いんですけども、
お子さんが乗っているので、自転車から降りれないんですね。
降りれないとどうしてもドライブスルー状態になるんですね。
そうすると、なにがあるかもわからないでですよね。
だから、これがあると自転車から降りなくてもわかるんですよ。
店頭のムシパンリスト
まるで、芝居の舞台のような感覚でお店づくりをしているムッシュにとっては、
ムシパンと同じようにお店の一つの作品なのだと気づかされます。
ムシパンの道具
蒸しパンを作る機材は「蒸し器」と「蒸籠」の二つという「シンプル」な構成です。

「蒸し器」
大量の水を熱し、その蒸気で蒸します。

「蒸籠」
ステンレスと木で作られた蒸籠があるそうです。
けれども、ムッシュは木にこだわります。

蒸すとふたの裏に蒸気があたり、
急激に冷やされ、水滴ができます。
ステンレスの場合は、
その水滴がパンに落ちてしまい、ねちょねちょになるそうです。
けれども、木は余分な水分を吸い、水滴を落としません。

また、蒸籠の布をめくると竹を発見。
以前は、BBQに使うような網を使っていたそうですが、
「竹は木と同じように、
余分な水分を吸う、すごく良い材料です」

と、木・竹といった素材へのこだわりが
ムシパンのおいしさにつながっています。
左上:蒸し器   右上:ステンレス蒸籠とムッシュ
左下:木の蒸籠と蒸す前のムシパン   右下:木の蒸籠の中の竹



3.ムッシュ

ここでは、今までムッシュが感じてきたことを元に生まれた名言の一部を紹介します。
『誰よりも多く、率先して「恥」をかく』

『モノ・空間・時間、これら全てを決して無駄にしない』

『精進し続けることで、身が保たれる』

これらの言葉に共通していることが、人が生きていくためにどうすればよいか、ということではないかと感じられました。
そして、それらがムッシュのムシパン作りにつながっているのです


『誰よりの多く、率先して「恥」をかく』
日本で恥をかくことはダメなことという認識がありますが、恥をかくことが悪いのではなく、
恥をかくのを恐れて何もしないことが一番悪いこと。
つまり、なんでも率先して失敗することが成功につながってくるのです。

お店では、「こんな蒸しパン初めて!」というムシパン達に出会うことができます。
それは、ムシパン作りにおいてもムッシュのたくさんの失敗作があったからこそ、
現在の創作あふれるムシパンをお店に出すことができるのです。



『モノ・空間・時間、これら全てを決して無駄にしない』
例えば、日本の長屋はとても狭い空間であるのに生活が非常に豊かである。
それは、空間を無駄にしていないことなのです。
そしてモノ、特に食べ物は絶対に無駄にしません。
そして時間。時間は凝縮して使わないといけないのです。
これら三つのバランスが非常に大事なのです。

いらないモノでいっぱいになって、部屋や家が狭く感じられることってありませんか。
また、モノを大切にするために必要以上に長い時間かけたりしませんか。
モノ・空間・時間のどれかを無駄にしないために、他を無駄にしては意味がありません。
それは難しいことであるけれども、ムッシュは挑み続けています。



精進し続けることで、身が保たれる』
人生を豊かに生きるためには一番重要なこと。
精進とは、イヤなことをすること、はたまた仕事をすることである。
働き詰めだった人が仕事をやめて、自分の好きな時間を持てるようになると、
その人はうつ病になってしまったという話があります。
それは、イヤなこと、仕事すること、それを続けることで人の身が保たれ、
人生は豊かになるということを表しているのです。

ムッシュは、蒸しパン新聞を作ったり、新しい商品を開発したり、ブログをのぞいてみても、
ムッシュは大変忙しい人であることがわかります。
忙しく働いているのです。
率先して忙しくして、身を保っているのです。



ムッシュは仕事を忙しくしているだけではなく、あすの会をはじめ、民謡や読書など、様々なことに興味を持っています。
それがムッシュの仕事、人生を明るく楽しく忙しくしているのでしょう。

ムッシュの格言を聞いて、やはりこの人は忙しい人だなと感じました。
そしてそれがあつい。とてもあつい。
ムッシュのムシパン作りが、ムッシュの生き方とリンクしていて、常に全力であることがわかりました。






4.おわりに


毎日、100人から200人近い人とお会いします。
来てくれる客さんは本当に素晴らしい人が多いですが、なかにはひどいことを言う人もいます。
こういった人まで愛して喜んでもらえるように努力するというのは確かに難しいことでしょう。
しかし、私はそんなとき、こう考えるようにしています。
『こういう人は、どこへ行っても、そんなひどいことを言っている。そしてどこへ行っても、「ひどいことを言うなぁ」と嫌がられる。
   そういう人は、どこへ行っても嫌われて、今日も独り寂しく暮らしている。』
こう考えると、なんだか「かわいそう」に思えてくるんでうす。
私こそが誰よりも率先してこういう人を愛してあげないとならないという使命感がわいてくるんです。
人に愛してもらおうと望むならば、まずは自分から愛さないとダメってことでしょうね(笑)。
                     

                                                         渡辺祐介



ムッシュのムシパンは、食べたことのない組み合わせの蒸しパンであるのに、どこか優しい味がします。
それは、ムッシュが人を大事にする気持ちを持っているからではないでしょうか。
ムッシュ自身、そして蒸しパンを食べてくれる人みんなが楽しくなるような
ムシパン作り、店作り、そして生き方がムッシュなのだと感じました。
あなたも是非、ムッシュムシパンを一度訪れ、感じてみてください。


                              取材・写真・文章 : 酒井・永江・文(大阪市立大学)