もっといろんなことに挑戦してみたい
―現代の表具職人の挑戦―

塩 田 鯉 昇

表具

 表具と言う言葉を聞いた事が無い人が結構いらっしゃるみたいで、よく建具屋さんや畳屋さんに間違えられます。
 扱う商品は和額(扁額)・屏風・衝立・巻物・画帳・掛軸・襖・壁張り・腰張り・障子の張り替えと多種ですが、要するに和紙?に糊を付けて貼るのが仕事です。
 わたしのおもにしてることは襖・障子の張替え・古い掛軸の本紙を水や薬品で汚れをとり除き仕立て直すことです。一昔前には阿倍野・住吉は表具店の激戦区でした。いまだに襖紙を扱う材料店も2店あります。おかげで襖の張り替えは朝引き取って、夕方納めることが可能です。

1.はじめに
2.表具屋さんの一日
3.表具屋今昔
4.表具の魅力
5.おわりに

 


1.はじめに

職人レポート第1回目は、表具職人の塩田鯉昇さんの仕事場へおじゃましました。すまいづくりに興味をもっている人にとっても、「表具屋さん」というのは、あまり馴染みのない響きかもしれません。しかし、ちょっと家の中を見回してみて下さい。襖、障子、掛け軸…いろいろなところに、表具屋さんの仕事を見つけることができます。

色のついているところが表具屋さんの仕事。以外とたくさんあります。(絵は塩田さんによる)


2.表具屋さんの一日

塩田さんの仕事は朝の10時から始まります。「職人は朝が早いというイメージがあるけど、家の用事をすませてからだとこのくらいの時間になってしまうんです。」塩田さんが受ける仕事の範囲は往復30分の距離。だいたい、朝に襖を回収しに出掛けて、修理して夕方に届けるのが基本です。

店に訪れる客のほとんどはリピーター(つまり、昔からの馴染み)で、あとは、看板を見て入ってくる人だそうです。「職人というと、気難しいイメージもあって、紹介でもないといきなり訪ねていくのは抵抗があるようです。」

「どんな仕事が多いのですか。」という質問に、「近ごろは、網戸の張り替えなんていう仕事もあります。本当はやりたくないんですけどね。」ともらしていました。

塩田さんの仕事場は、大通りを曲がった、わりと広めの道路に面していました。外からも中の様子がうかがえるので、看板を見て入ってくるお客さんも結構いるそうです。

仕事で使う道具はもっとたくさんあります。表具屋といっても、ただ紙を貼るだけが仕事ではありません。枠を削ったり、調節したりすることも大事な仕事です。

 


3.表具屋今昔

阿倍野には、塩田表具店以外にも十数件の表具屋さんがあります。材料店も、歩いて行ける距離に二件、天王寺バイパスを越えたところにもう一件あり、他の地域に比べて比較的表具屋の活動が活発です。しかしこれでも、昔に比べるとずいぶんと店の数が減ったのだそうです。店の少なくなった原因は、やはり跡継ぎの問題で、職人の高齢化も問題となっています。現在は、和歌山から枠を仕入れており、引き手もメーカーものが主流となってきているそうです。

上の絵でも分かることですが、表具がつかわれる場所は、畳のある部屋、つまり和室が主な場所です。昔は長屋だと40枚くらいの襖が必要だったのに、今では家1件につき5〜6枚くらいしかなくなったそうです。

塩田さんが表具やさんになったのは、父親の後を継いだからでした。「私の父は、戦争が終わってすぐ、昭和23か4年ごろに、ここで表具屋を始めました。小学生くらいのころは、よく手伝ったものです。だから、表具屋を継ぐのは当然と思っていたのかもしれません。職業訓練学校を卒業してすぐに、この仕事をはじめました。自分がサラリーマンになるというのも全く想像出来ませんでした。」

修理したものを見せてもらいました。表からはきれいに見えますが、裏から紙をあてて、ほころびを補修してありました。光で透かすと僅かにわかる程度です。


4.表具の魅力

昔から住まいの中で多く使われている表具ですが、そんな襖の魅力を教えて貰いました。
「思い込みと言われそうですが、襖・障子っていいものですよ。」

◆ 襖のよい点

・軽くて丈夫、開け閉めが楽に出来る。
・気分を替える為に張り替えが可能。
・壊れた部分(フチ・引き手)のみ取り替えが出来る。
・再生品の利用・エコマークの商品が多い。
・温かみがある。
・断熱材として優れている。 

 

・柱の歪みにあわせてつくる。(オーダーメイド)
・湿度の調整をしてくれる。
・続き部屋の取り合いならばはずして部屋を広く使える。
・襖紙の材質・絵柄の数が多い。  
・消音の効果がある。
・消臭効果が大きい。

◆ 障子のよい点

・太陽の光を分散して、柔らかい光になる。 
・外からのほこりを入れずに、換気が出来る。

塩田さんは仕事以外にも、ご自身の使う棚を作ったりしています。塩田さんの作った収納棚の扉は、ちょう番などをつかわずに紙のみで留まっています。2枚の扉は山にも谷にも折ることができ、襖の軽さを生かしたものになっています。

 

塩田さん自作の収納棚。仕事場にありました。右の2枚は、扉を両側に折ったところ。襖にすると、こんなことも簡単にできてしまいます。

塩田さんの仕事場で、技能グランプリの賞状をみつけました。他にも、技能士の章がかけてありました。「若いころは自信をつけたくて、資格に挑戦したりしました。」

塩田さんは、表具店の仕事の他にも、展示会などにも精力的にとりくんでいます。1993年には、「襖デザインコンペ」を行い、募集したコンペ案を、塩田さんらが協力して実際に作ったそうです。「この企画はすごくおもしろくて、本当は第2回、3回と続けてやりたかったのですが、予算の都合がつかず、結局1回で終わってしまいました。なんだか消化不良になった感じなんです。だから、こういったことをまたやりたい。このコンペは、どちらかというと建具よりだったので、今度は、描き絵襖なんかをやりたいと思っています。」と語ってくれました。

第10回 一級技能士全国技能競技大会 技能グランプリ受賞 (表具部門 1991)大会にも意欲的に参加しています。一番右には、「大阪府表具協同組合之章」がかかっています。現在75名程の組合員がいるそうです。


5.おわりに

普段あまり気にすることはありませんが、表具とは、実はとてもつかいがってがよく、空間の表情を変える力を持った、魅力的なすまいの道具です。塩田さんは、そんな道具を、伝統的な技術だけでなく、現代的な要素も取り入れた表現を追究しようとしていらっしゃいました。このレポートを通じて、表具が少しでも身近に感じてもらえればとおもいます。

 

取材・文・写真:北浦千尋(2003.5.29)

 


 

◆プロフィール

塩田鯉昇 シオタリショウ

1955 阿倍野区生まれ
1980 大阪府表具高等職業訓練校卒業
1985 技能検定一級合格(表具)
1986 技能検定一級合格(壁装)
1992 一級技能士全国技能競技大会出場
現在 大阪府技能士会連合会運営委員

◆連絡先

6623-8559 阿倍野区阪南町4-1-25
TEL 06-6623−8559
FAX 06-6623-5193
shiota@gw2.gateway.ne.jp   地図

◆参考ホームページ

日本襖振興会
http://www.fusuma.gr.jp/

からかみ屋…表具のショールームです。天王寺にもあります。
http://www.karakamiya.co.jp/