あらゆる仕事は、あらゆる人間性どおりに仕上がる
現代の大工職人の素顔

奥 田 文 夫


大工

猫が天井に子どもを産んで騒がしいのですぐに来てくれ、と言われ駆けつけ、溝が詰まっているから排水の掃除もしてほしいと言われればそれもやり、どんな事にも相談に乗りすぐに解決の手立てを打ちます。また一人暮らしのおばあさんの昔話もゆったりと聞いてあげ、はげまし、逆に先人の知恵も教えてもらう。その様な日々の積み重ねによって、地域で仕事をつづけていく事ができるものだと思います。。



1.はじめに
2.大工さん
3.格言
4.おわりに

 




1.はじめに

職人レポートも三回目となりました。今回は大工棟梁の奥田文夫さんを取材しました。

皆さんは大工さんにどのようなイメージをもっていますか?職人気質の頑固な親父といったイメージを持っておられる方が多いのではないかと思います。ところが、奥田さんはとても気さくでおもしろい方でした。

現代を生きる大工の素顔に迫ってきました。






2.大工さん


昔の工事は、棟梁・各親方・職人・見習いで成り立っています。棟梁は、すべての仕事を管理する仕事で全部知らないとできないとても責任のある仕事です。オーケストラであれば指揮者であるわけです。

昔 の親方は厳しく、「痛みを伴って覚えさせる」指導であり、奥田さんが見習いだったころは、口ごたえしたために親方にどつかれ、怪我をすることも多々あった そうです。そのため、わからない時は親方に聞かず、やさしく教えてくれる職人さんに聞いていたそうです。また見習いの先輩である兄弟子というのは親方以上 に怖かったそうです。

また、こんなエピソードを聞きました。
奥田さんが、見習のころ鍵をなくしたそうです。次の日、新しい鍵は60cmくらいの角材につけられていました。よいしょと、抱きかかえるような材木だったそうです。親方は、「これならなくさんやろ」と。

このように、厳しいながらもユーモアのある現場だったそうです。

 親方は各種工事の職人からなりますが、
 棟梁は、大工職からしかなれません。 
 なぜなら、土台
(基礎)から屋根・左官・
 畳・襖まで、あらゆる最後の仕上がりの
 部分(納め方)を知っているのが大工職
 だからです。

最近の仕事は、数十年前の工事の施主さんや、地域の知り合いからの紹介が多いそうです。
「小さな仕事でも丁寧にすることで、信頼を買い、大きな仕事につながる。
日々の積み重ねが地域で仕事を続けていくことになる。」
ここに、奥田さんのスタイルが見られます

奥田建設の前景 代表作 M
大工の技が光る、仕口という部材接合部分。 近所の方が不快に思わないよういつも整理整頓されています。
取材に行ったとき、古いお家の縁側の改修工事をされていました。
若い見習いの大工さんに、ときには厳しく、ときにはやさしく指導されていました。
 



3.格言

すべてのことにエネルギーをつぎこめ
れは奥田さんが私たちに熱く語ってくれた言葉です。「どんなことでも、たとえ釘一本に対してでも、エネルギーを使って接すればそれは応えてくれる。みんな生きているから、なめてかかってはダメだ。」

このことは奥田さんの体験談に深く関係していると感じました。その体験談をちょっとご紹介…

   ・中学卒業後丹波から大阪に出て、大工見習いをしながら、
    今宮工業高校の夜間で建築の勉強をする。

  ・高校卒業後、19歳のときに秋田県の民族舞台に参加する。
   八丈島太鼓とソーラン節の踊りに、背筋が寒くなるほど感動する。
   本当に演劇をしようと一時は決心する。が、友人に反対される。
  
 ・「それほど熱があるなら地元大阪でやったれ」と思い、
    26歳のときに、友人と2人で、なんばで盆踊りをしようと決心。

   たくさんの波乱とぶつかりながらも、3000人もの人がくる大成功を収める。
    この盆踊りは、その後10数年続くことになる。

  ・大工仕事をしながら、ベトナム戦争反対、沖縄返還運動などの平和運動に参加する。
  ・家庭を持ち、落ち着いてきた頃に、民謡を始める。
   今では『唄準師範』『三味線名取』といった称号を得られるまでに。

「三味線は、3本の糸ですが、一本だけでは良い音色は出ず、3本がきちっと調弦されて、始めてその一本の音もさえてくる。全ての建物も人間関係も同じで、自分だけがと目立つようにすると、結局その本人(物)もひからなくなる、そんなものだ」と言われていました。

多くのことに興味を持ち、さまざまな経験をしてきた奥田さんは、たくさんのエネルギーを使い、そこから返ってきたものを吸収して、今の奥田さんの建築哲学や人となりを作っているのだと感じました。

その体験が地域ということに関係しており、奥田さんが地域で根ざした関係の仕事づくりを大切にしているのがとてもよくわかりました。

その奥田さんの人間としてのあたたかみや優しさが十分に伝わってきて、この奥田さんの格言は、説得力を持って教えられた気がします。








4.おわりに

“人間が自然にやさしく”というキャッチフレーズがよく言われていますが、この言いまわしも傲慢な言葉で、“自然が人間にやさしく”しているから、私たち人類もかろうじて、生かせてもらっている。そんな謙虚さが今、大切だと思います。

奥田文夫

地域の多くの人と交流をもち、地域の拠り所となる。それが、現代の大工さんである。悪質リフォームが問題とされている今、一度地域に目をむけてください。奥田さんのような頼れる大工さんがきっといるはずです。きっとあなたの力になってくれますよ。
 取材・文・写真:酒井、永江、(2005.6.30)